企業のトップが、自分の言葉で社外に語る機会が増えています。
決算発表、記者会見、テレビや新聞のインタビュー、海外投資家との対話、国際会議、そして危機発生時の説明。
こうした場面で経営者が何を語り、どう伝えるかは、企業への信頼やレピュテーション、時には企業価値そのものにも影響します。
私はNHK WORLDで25年以上、国内外のCEO、政府関係者、エコノミストなど、さまざまなリーダーにインタビューしてきました。
その経験を通して強く感じてきたことがあります。
「伝えたいことがある」ことと、「それが相手に伝わる」ことは、まったく別のことだということです。
素晴らしい考えがあっても、伝わらなければ届かない
日本の経営者方々には、深い知識と経験を持ち、世界の経営者よりも優れたアイディア、メッセージを持っていらっしゃる方がたくさんいます。
ところが、インタビューになると、その良さが十分に伝わらないことがあります。
質問に対して背景から丁寧に説明しようとする。正確さを重視するあまり、さまざまな条件や例外を付け加える。そして話が長くなるうちに、一番伝えたかったメッセージが見えなくなってしまう。
専門知識を持っているからこそ、すべてを正確に説明しようとしてしまうのではないかと思います。
しかし、メディアを通して情報を受け取る人は、その分野の専門家とは限りません。
限られた時間の中で、
「この会社は何を目指しているのか」
「なぜ今、それをするのか」
「私たちにどんな影響があるのか」
を理解できなければ、せっかくのメッセージも届きません。
メディア対応は「質問に正しく答えること」だけではない
メディアインタビューを受けると、多くの人は「記者の質問に間違えずに答えなければ」と考えます。
もちろん、質問に誠実に答えることは大切です。
しかし、優れたインタビューは、それだけではありません。
重要なのは、
「このインタビューを通して、自分は何を伝えたいのか」
を明確にしておくことです。
例えば20分のインタビューを受けたとしても、ニュースで実際に使われるコメントは数十秒かもしれません。
では、その数十秒で何を残したいのか。
経営者方自身がそれを意識しているかどうかで、インタビューの質は大きく変わります。
私自身、長年インタビューをしてきて、メッセージが明確なリーダーほど、難しい質問をされても話の軸がぶれないことを感じてきました。
質問に答えながらも、自分が伝えるべき重要なポイントに自然に戻ってくることができるのです。
危機のときほど「伝える力」が問われる
この力が最も試されるのが、危機が起きたときです。
事故、不祥事、製品トラブル、サイバー攻撃、業績悪化――。
企業にとって不都合な出来事が起きれば、経営者は十分な情報が揃っていない段階でも説明を求められることがあります。
そのとき、完璧な答えを持っているとは限りません。
だからこそ、
何が分かっているのか。
何がまだ分かっていないのか。
会社として今、何をしているのか。
を明確に伝えることが重要になります。
危機の際にステークホルダーが見ているのは、説明の内容だけではありません。
そのリーダーが問題をどのように受け止めているのか。責任を持って対応しているのか。そして、その言葉を信頼できるのか。
コミュニケーションそのものが、企業への評価の一部になります。
メディアトレーニングは「うまく話すため」の訓練ではない
「メディアトレーニング」と聞くと、カメラの前で上手に話す練習をイメージする方もいるかもしれません。
しかし、本来の目的はそれだけではありません。
自分たちが伝えるべきメッセージは何なのか。
複雑な内容をどうすれば短く、分かりやすく伝えられるのか。
厳しい質問をされたとき、どう対応するのか。
そして、自分の言葉がどのように受け取られるのか。
こうしたことを、実際にインタビューを受ける前に考え、準備しておくことがメディアトレーニングです。
スポーツ選手が本番だけで力を発揮しようとはしないように、経営者のコミュニケーションにも準備とトレーニングが必要だと私は考えています。
「何を言うか」から「どう伝わるか」へ
これまで私はジャーナリストとして、企業やリーダーを外側から見てきました。
そして、同じように優れた考えや戦略を持っていても、コミュニケーションによって受け手の印象が大きく変わる場面を数多く見てきました。
だからこそ今、経営者やリーダーの方々が、自分の考えをより明確に、より自分らしく、そして世界に伝わる形で発信するお手伝いをしたいと考えています。
このブログ 「Speak with Style! ― 世界に伝わるリーダーのコミュニケーション」 では、メディアインタビュー、プレゼンテーション、危機時のコミュニケーション、グローバルな場での発信などについて、私自身がジャーナリストとして経験し、感じてきたことを交えながらお伝えしていきます。
完璧に話すことが目的ではありません。
大切なのは、自分が本当に伝えたいことを、相手に届く形で伝えること。
それが、これからのリーダーにますます求められるコミュニケーション力だと思います。
